生まれる前の順番待ち


大学のクラブの同輩に、根津という男がいた。
彼は私と同じく高校を卒業して大学に入る迄2年のブランクがあり、同じ歳だった。
根津はある時、次のようなことを覚えているのだと言い出した。
「生まれてくる前に、地上を見下ろせるところにいた。」

そこでので様子を次のように語った。
根津の右隣に一人の男、左側には女性が同じ格好で座っていた。
そこからは下界の海が見えたので、多分、海の近くだったようだ。
周囲を見ると、自分たちと同様に3人一組のグループがあちこちに座っていた。
この世界には段階があるようで、自分と地上の間にはいくつかの層になっている。下を見ると同じように地上を見下ろしている人々が見えた。
自分たちのいる所より上にもずっと段階があるようだが、自分よりも上の世界は見ることができないらしい。
みんな地上に生まれ落ちるのを待っているようだった。

根津の左の女性は気が強く、負けず嫌いで、積極的に自分から進んでやる人で根津の右側の男性は、とても口数が少ない、優しくおとなしい性格だったと言う。
詩を作ったり花を見て美しいと思う女性的な一面をもった気が優しい人間だった。
その男の体は真っ黒で(肉体はもっていないので、霊的次元で)、暇さえあれば「修行だ、修行だ」と言っているような、禁欲的なところがあったとも言った。
彼ら3人よりも遙かに高い所には、神だか仏だかわからないが偉い存在が彼らをいつも見守っているらしかったが、その姿は見えず、根津はその存在からあまり好ましく思われていなかった。
と・・・いうのは、彼は神さまに対して憎まれ口をたたくようなところがあったからだ。
もう一人の男は、無口で暗い性格だが真面目で、その存在は偉い存在から気に入られていた。
他の人の事は判らないが、彼ら3人はキューピッド的な能力が与えられていたのだそうだ。

彼ら3人は自分の両親となる人を選ぶことができる権利をもっていた。
この父親と母親のもとに生まれたいという人を見つけて・・・
その2人を結びつけて結婚させることができるというのだ。
根津の隣の男が母親として選んだのは、背が低く、少し太った女性だった。
彼女はとても気が強く、頑固だった。
彼はその女性とある男を結びつけ、結婚させた。
彼の父親となる男は、人間的にとても弱い面をもっていた。
そして2人は結婚した。
根津は私の両親に会った事もなく、2人がどんな性格でどんな外見かを全く知らない筈だったが、彼の話す男の両親の描写は、全て私の両親に当てはまっていた。
また、常日頃から私自身は過去生でインドのヨガ行者だったのではと思っていたので、「体が真っ黒」で、いつも「修行だ、修行だ」と言っていたというのも納得できる。
そして、3人が地上界へ生まれるべき時が来た。
根津は先に地上へ行くと言い、選んで結婚させた両親の元へ生まれていった。
だから残った2人のうち誰が次に地上に降りていったか、根津は知らないという。
しかし、2人の性格から想像すると、やはり引っ込み思案の男よりも、何事にも積極的な女の方が絶対先に生まれただろうと言うのだ。
根津の生年月日は1956年4月28日土曜日。
その「無口な男」というのが私のことだとすれば、私は1956年5月5日土曜日に生まれていて、ちょうど根津が生まれた1週間後で、と・・・いう事は・・・もう一人の女の方は、この1週間の間に生まれているということになる。
ところでこの3人は生まれていく前、地上のどこかで出逢う約束をしていた。
そして、その時にお互いを認識できるように、それぞれ体のどこかにホクロを付けて、それを目印にしようということになって、それで根津は左の顎に、女は右の背中に、そしてもう一人の男は右の胸にホクロを付けることにした。

根津がここまで話した時点で、その無口な男というのが私なのだという確信が決定的になった。
なぜなら、私の右の胸には、大きなホクロがあったからだ。
根津は私の上半身の裸を見た事もなく、胸にホクロがあるかどうか、知っているはずがない。

さらに言えば、生まれる前に根津と私と一緒にいた女に該当する女性が一人存在するのだ。
大学を卒業して根津とも会うことがなくなってからのことだった。
親友の吉田が結婚したが、その奥さんが根津と私の間の、1956年5月3日に生まれている気の強い女性なのだ。
吉田に何気なく聞いたら背中の右側に大きなホクロガあるというので、その後、真面目に事情を話して吉田に聞いた。
すると、奥さんにも、「生まれる前に男性2人と下界を見下ろしていた・・・」と、そんな記憶があるんだそうだ。