むかしむかしの・・・

kaguyahime

この頃、沙耶香(2才)が寝る時に昔話をしてやることがある。



昔話は静香にも郷にも聞かせてやった。

私が話をしてやると、なぜかスヤスヤ寝始める。
初めは大きな目で私の顔を見ている。
私は目を閉じてゆっくりと小さな声で、しかも情感を込めて話してやる。
私の持ち話は、「うさぎとかめ」、「浦島太郎」、「桃太郎」、「花咲かじじい」、「かぐや姫」。


先日、「カチカチ山」の話を始めたところ、話の筋が解らなくなり、側に居た静香に散々怒られた。
そこで、あわてて静香に筋書きを聞き直す始末。
ところが、この話は意外にも残酷な話で、寝かせる話としては相応しくないと判断し、「浦島太郎」に切り替えた。
「うさぎとかめ」の話の時は、大体、うさぎが目を覚まし、あわてて走り始めるが、
かめがゴ-ルしてしまうあたりで沙耶香は目を閉じる。
私が、「うさぎはピョ-ンピョ-ンと走り、かめはノッソリノッソリ走る」と話してやると、
沙耶香が楽しそうに繰り返している。
沙耶香の頭の中では、競走のありさまがクッキリと描かれているのであろう。



翌日、

「沙-タン、うさぎとかめと、どちらが好き?」

と尋ねたら、 「うさぎが好き」

と返ってきたのも面白かった。
「浦島太郎」では、竜宮城から亀に乗って戻って来る途中で寝てしまう。
「桃太郎」では、鬼退治が終わるまでは沙耶香も頑張っている。
「花咲かじじい」はなぜか、評判が良くなく、リクウェストがかからない。



「かぐや姫」は、月に返って行く時、

「カグヤヒメ~、カグヤヒメ~」、

とお爺さん、お婆さんが叫び続けるうちに眠ってしまう。
「おじいさ~ん、おばあさ~ん、さようなら~。ありがとうございました~。」
「かぐや姫~。元気でね~。さようなら~。」
このシ-ンになると、なぜか私の声に特別な情感がこもってしまう。
小さな声で何度も続けてしまう。もうとっくに沙耶香は眠ってしまっているのに。



沙耶香にこんな調子で話をし終わると、フッと昔のことを思い出すことがある。
私が誰かから話を聞きながら眠りについたという記憶は、当然ながら全くないが、
子供の頃の記憶が断片的に色々残っている。

お袋さんが揚げていた芋の天麩羅を一つもらつて食べると実にうまかったこと。

親父さんが酒を飲んで返ってきた晩、非常に機嫌がよく、お土産にバナナを手渡してくれたこと。

近所からメロンを貰い、2~3日床の間に置いていた。

待ちに待って漸く切ってもらうと、一人分が非常に薄かったこと。

薄暗い家の中、誰かの誕生日か、あるいは給料日だったのかは定かではないが、みんなが輪になっている。

囲んだ新聞紙の上に誰かがお菓子を配っている。

新聞紙の上にお菓子の山ができていく。

お菓子は リン菓子とキンカポ-ル。これをくじできめる。胸がワクワクしていた。

親父さんの日曜大工。

お袋さんのもんぺ姿。

汽帆船に勤めていたねえちゃんにもらった5円玉。

にいちゃんに乗せてもらった自転車の後ろ座席で見た大きな背中。

行き先は厚狭球場。

ヒドオちゃんを厚狭駅 まで見送ると、「何でも買え」と言って渡してくれたお札。

サオちゃんと初めて行った甲子園。

そして、大学入学の祝いにと買ってくれたブレザ-。

何年ぶりかで帰って来たフンちゃんが夜食にと言って買ってきてくれたカツサンド。

カエさん、カエさんと言って遊んでいた下関の官舎。

キンコちゃんが下関に初めて来たときの感動。

テレビが初めて来た日。

ねえちゃんの結婚式では貰われて行くねえちゃんが可哀相に思えた。

おねえさんがお嫁に来る前、みんなが私に指導。

「オネエサンと、呼べ」と。その時、 私は、小学校に上がる前の幼稚園。



こうして昔を振り返ってみると、色々なことが思い出されて来る。
苦しい日々、そして、感動の数々が一つ一つ脳裡に浮んで来る。
私にはもう誰も昔話を語ってくれる人がいない。
目をつぶり、過ぎ去った遠い昔のことを自分自身で語るのみ。
登場人物はとおちゃん、かあちゃん、にいちゃん、ねえちゃん、
その他様々な人。そんな懐かしい昔話を自分に聞かせながら、いつの間にか私も目を閉じてしまうのです。



編集後記

仕事の都合で、私の帰りが遅くなると沙耶香はもう寝てしまっている。
そんな時は少々ガッカリである。私の楽しみを取られてしまったような気がする。
ところが、先日、私の帰りが遅くなった夜、静香が代わりに沙耶香に昔話を話してやったらしい。
お母さんが様子を見に行くと真剣に沙耶香が聞いている。しばらくして行ってみると、
沙耶香の目はトロンとしてきはじめた。
5分後にまた行ってみると、今度は語りべの静香までもがスヤスヤと寝ていたと言う。
皆さん、昔話はいいもんですね。


一度、幼い頃を振り返って、文章にまとめてみませんか。
机に向かって何やら書いてみますと日頃、全く忘れてしまっている些細な、
しかも懐かしい思い出が浮んで来るものですよ。そうしたら、御一報下さい。
この“こぼれ話”に無料で掲載して差し上げます。面白い話を期待しております。