織田信長を読む男

nobunaga

郷、現在9才。小学3年生。

趣味、特技ともにサッカ-。
月から土曜日は小学校で自主練習。
日曜日はチ-ム練習。
時には公式戦で弁当、水筒を持ち、電車賃の500円を持って遠征に出掛ける。
郷にとっては毎週が戦いであり、新たな体験である。
そのため、家に帰るとシャワ-を浴び、食事をとって大の字になって寝てしまう。
実に健康的で、羨ましい次第。

ところが、そんな郷を毎日そばで見て、郷の将来を憂えている人もいる。
それが母親であることは言うまでもない事だが、母親としては至極当たり前のことでもある。
40日の夏休みの間、郷とお母さんの毎日のやり取りを少しだけ紹介しましょう。
「郷君、サッカ-もいいけど、サッカ-だけならただの人。」
「朝の1時間でもいいから、机に座って宿題をしなさい。」
「ほんとに、だらしない子ね。」
「あんたは、おおきくなって一体何になるつもりなの?」
お母さんが何を言っても、何も返答が返って来ない。
郷にとっては、朝はサッカ-のことで頭が一杯。
夕方は疲れきって返答どころではないのである。

そうなると、私の方に矛先が向いて来る。
「もう郷は私には、手に負えない。お父さんから何とか言ってよ。」
そう言われて、郷を呼びつける気にもならないから、
「そのうち、郷も自分からやるようになるさ。それまで待つしかないよ。」
「郷君、そのうち、やるよな?」
と言うと、郷が素直に、

「ウン」と答える。
肩透かしをくわされたお母さんが私に一言、
「お父さんは、本当に甘いんだから。」
そして、郷にも、
「郷君、本当に、やってよ。自分のためなんだからね。」

そんな毎日のやり取りの中、郷も母親の顔を立てて、一通りのことはやっているのである。
算数、国語の宿題の他、写生画、習字、本も3冊読んでいる。
『ウォルト・ディズニ-の伝記』、『明日までは秘密のヒミツ』、それに、『織田信長』。
これらの本を読むときにはいつも、私が横にいてやり、静かな環境を作ってやる。
私も別の本を読んでいる。
そのため、郷は腹を決めて読み始めるのである。
約40~50分。途中、解らない時には私に聞く。

「長篠の合戦って何?」、

「今川義元って、どこにいたの?」

読み終ったら、何が書いてあったか、郷に説明させる。
すると、羽柴秀吉、徳川家康、明智光秀などの名前がポンポン、郷の口から出てくる。
そんな時、私には郷が実に頼もしく見えて来る。
郷自身、読み終った後の充実感を味わっているのであろう。表情は実に爽快そうである。

昨日、夕食時、今年の若葉台文化祭の習字展示に何を出すかという話しが出た。
郷と静香が通っている習字教室で毎年出展することになっている。
そこで、郷は先生に、『天下』という字を出すことにしていると言ったと言う。
これを聞いて、『織田信長』効果があったかな、と密かに思った。
夜、大の字に寝ている郷の姿を見て、大きくなったなぁ、とつくづく思った。