山の声 25才の女材木屋

2014年01月14日

不況の中でも、原木は買わねばならず、無理算段して少しずつ購入し、それを搬出して、売りさばくまでには、幾多の工程があり、難問は山積した。

私は一生懸命一人で勉強した。

たとえば原木を製品化する時、どんな製材のやり方をすれば、一番有利か、高く売り上げられるか、原木の太さや材質により、製品の取り具合で、売り金額にかなり、差のつくことを知った。

大木でも中心は目が荒いから、そばから四方廻し取りに製材すれば、価格の高い柾目が取れ、薄板に製材すれば、天井板となる。勿論、太い木でも、節があれば柾目は取れない。

また、節のないものは、厚板にして、建具材に、節があれば建築用材とか、用法は千差万別である。

勿論、こんなことは、この道に携わっている人なら、誰でも知っているが、職工たちは、立派な原木でも、能率だけを考え、面倒なことはやりたがらなかった。

私が意見を言えば、女のくせに何がわかるかと言わぬばかりの素振りをした。いや、、はっきりと言った。

「自分たちは、長年この仕事をやっているですたい。奥さんは最近この仕事に、首突っ込んだばかりじゃあなかですか。製材のことは、あっしらに、安心して任してもらわにゃあ。」

女の指図は受けぬと、言わぬばかりの態度だった。

それも、当然のことと思う。相手は四,五十歳のプロ、私は二十五歳の素人、言う方が無理かも知れない。

しかし、それ位のことで、私も引っ込んではおられない。

「私の言うとおり、いっぺん製材してみて。あんたたちの製材のやり方で、製品の売上価格を計算してみよう。それも研究だから。」

こんな会話をした後、職工たちは渋々、私の言うとおり、試験的に製材してくれた。それを製品として、売る時の価格を計算してみると、私の意見の通りに製材した方が、はるかに売り上げが高かった。

職工も何となく納得してくれた。

山の立木の見積もり方についても、私は一から勉強した。勿論、その道の専門家にも教えてもらった。

先ず、その山の材積を知るためには、現場に行き、立木の一本一本を巻尺で、目の高さを計り、木の伸びを見定め、一本の立木の材積を算出し、山の総本数の集計により、その山の総材積を知ることができる。

材積は、石という単位で表す。材木の容積は十立方尺が一石である。

さて、山の総石数が、算出できただけでは、山の立木の価格は決められない。

樹の材質、品種、樹齢、伸び具合などを考慮に入れることが大事。いかに巻尺できちんと寸法を計っても、伸びの無い木は石数も大抵減るし、材質もよくない。

伸びのある気は、石数は実際の計算より、出ることが多い。従って、伸びの無い木を買ったら、その山は、儲からぬことになる。

木の伸び等、立木を正確に計ることは、難しいから、感で決めるより外はない。

慣れれば下から見ただけで、大体間違わない。よく伸びてるという木は、杉で十二間から十五,六間、伸びの無い木は、八間からせいぜい十間のものを言う。

さらに、搬出の良否はどうか。少々距離が遠くても、山の際までトラックが着けば、搬出は良い方だが、距離は近くても、出材のため、他人の土地を借りなければならぬこともあり、その相談に金のかかることもある。また、道路の具合はどうか。特に道づくりなどに金が掛ればそれも考慮に入れなければならない。搬出代が高くつくことは、原木代が高くなることである。

以上のことを基本として、山の立木の価格は決められる。