書き下ろし小説 山の声

2014年01月14日 書き下ろし小説 山の声

山の声 未亡人の悩み

三十歳で未亡人となった母は、再婚はしなかったので、女としては寂しい一生を送り、子供の成長だけを楽しみに、生きたようである。 私にとって、父は物心つく前から居なかったせいか、父が居なくてもどうということはなかった。死んだと…

2014年01月14日 書き下ろし小説 山の声

山の声 父異郷に果つ

国境を無事越えることに成功した父は、五年間にかなりの金額を送金したという。 勿論借金は、早く返済したらしい。 やがて5年も経過した頃、 「五年経ったから、帰国の準備をする」 という手紙が来たので、留守宅では喜びにわいてい…

2014年01月14日 書き下ろし小説 山の声

山の声 国境を超える

南アメリカから送金すると、日本の円の価値が低く、送金しても目減りしたという。これではいつまで経っても、借金返済はできないと父は思い、どうしても円の高い、北アメリカ合衆国に、移らねばと思い始めたそうである。 当時の一ドルは…

2014年01月14日 書き下ろし小説 山の声

山の声 南米移民船

私が生まれた頃、父はかなり借金を持っていたそうである。 ある時、親友の借金の、保証人になっていて、その親友が若死にしたため、その債務を父が引き受けねばならぬことに、なったということである。 当時国内では、働くところがなか…