私、OLなんです。
有田さんは、なぜか面白い人生を送られている。
彼女が23歳のころに実際にあった話。
その時分、何度も、警察に補導されたことがあるという。
「お嬢ちゃん、もう遅いから、早く帰らないとだめだよ」
「わたし、今、会社の帰りなんですけど・・・」
「ちょっと、交番まで来なさい。」
「私、本当にOLなんです。ホラッ、定期はこれです。」
「お母さんの定期を持ち出しては駄目だよ。お母さんが、心配しているからね。そんな、ハンドバッグを持ち出すと、お母さんに叱られるよ。」
「あんた、どこで化粧をしてきた?、本当に困ったもんだね。」
「家まで送っていってあげるから。」
「いいんです。自分で帰れますから・・・」
こんなことは何度もあったというから、有田さんはよっぽど子供っぽかったんでしょう。
当時は東海道線の茅ヶ崎にお住まいで、勤務は花の東京。
ある日の夕方、いつものように通勤列車で帰るとき、立ったままで居眠りをしてしまったという。
それを見ていた初老のおじさんが、自分の本を持ち出し、
「これを読んでいなさい。眠気が覚めるから。ところで、一人でどこまで帰るの?」
「はい、ありがとうございます。茅ヶ崎まで帰ります。」
と言って見てみると、その本は鬼平犯科帳。
興味がないが悪いと思い、読んでいると、
「あんたのような子供が、珍しいね。こんな本が好きだなんて。」
「・・・子供じゃあ、ないの。23歳なの。」
「この子は面白いね。お母さんと一緒じゃあ、ないのか? 一人で帰れる?」
「今は、会社の帰りなんです。」
「ああ、そうなのか? じゃあ、飴をあげよう、いい子だから。」
有田さんは、注射が大嫌い。
会社の近くの病院で献血に行こうと何度も同僚から誘われたが、そのたびに断っていた。
しかし、大人の責任として献血をやらなければと、意を決して病院に一人で出かけた。
受付で、献血の申し込みをしたところ、
「子供はだめなの」
、と予想通り断られた。
しかし、健康保険証を見せて、ようやく認めてもらった。
恐る恐る、診察室に入ったら、真っ先に大きな注射器が見えた。
そこで、怖くなって部屋から出ようとすると、
いろいろなだめすかされて、ベッドに寝かされてしまった。
いよいよ、注射針が自分の体を通るとき、これは一大事とベッドから起き上がろうとした。
ところが、そこにいた看護婦が3人がかりで私を押さえつけた。
私は献血の間中、大声を上げて、泣いてしまった。
ところが、廊下で、その声を聞いていた、会社の同僚がいたのだ。
「今日さ、病院で、大きな声で鳴いていた子供がいてね。どうも、注射が怖かったらしいよ。本当にかわいそうだったよ。」
自分のことがばれるのではないかと、ビクビクしていたが、幸い子供の泣き声というので、私であることは、ばれなかったの。
結婚した後も、子供に間違えられたことは何度もあったそうです。
小学生の子供をつれて、駅で切符を買おうとしたことがあるという。
「子供1枚」と言ったとたん、
「あなたは、中学生でしょう、子供じゃあないじゃあないか」と叱られたときには、
少し複雑な感じもしたとか。
今は、2児のお母さん。上のお子さんが中学生の女の子。
PTAの役員をやられているとか。
さすがに、今は、子供に間違われることはないでしょう?
と聞くと、今でもあるんです。
でも、家にいて、
いやな人が自分の家を訪ねてきたときは、
「今、お母さんはいないの」、って言えば、みんな帰って行っちゃう。
「でも、それは、かえって怖いんじゃあないの?」、と聞くと、
「それもそうね。じゃあ、私、どうすればいいの?コワーイ、ヤダー」
こっちが嫌になってきてしまう。