芽生え


soccer1000
郷は5年生になった。

5年になり、サッカーの友達の中には塾に行く子が出てきたという。

しかも、一軍の選手に出てきたのだから、郷としては動揺する。

そこで、郷も、「塾に行きたい」と言い出した。

親の我々が待っていた言葉である。

静香を塾に行かしたのは5年生の5月からだった。

ところが、その静香でも、最初のテストで大きなショックを受けたのである。

今の郷の学習量、学習態度で塾に行って効果など出るとはとても思えない。

そこで、郷を説得。

4月9日、郷を連れて国立競技場にサッカーの国際試合を見に行った帰り道、

「しばらくは、お父さんと毎朝45分勉強しよう。そして、実力がついたら、塾には夏休みから行かせてやろう。」

と提案した。

郷はその提案を快く受けてくれた。

その時、“男の約束”を強調したのである。

早速、翌日から開始した。記念すべき4月10日である。

翌日は、私は6時に起きて郷を待つ。

しかし、起きてこないので、私が起こしに行く。

郷は目を擦りながら起きてきて、机に着く。私は、クラシックの音楽を流し雰囲気を作ってやる。

そうして、初日は成功。

そして、2日目も成功。

ところが、4~5日も経つと、“男の約束”の効力も薄れてきて、寝起きは悪くなり、学習態度も同様。

つい、大きな声をはりあげてしまう。

それでも、色々山坂があったが、無事2ヶ月は経過した。

私の目から見ても、2ヶ月前の郷とは、少し変わってきた。

学校のテストを先日持って帰った。

算数で85点である。

そこで、郷曰く、

「3問、間違えちゃった。本当は解っていたのに。」

以前は、テストはどこかに隠して、我々には見せなかった。

時々、机を掃除していると妻が見付けてきて、

「ホラッ」

と、私に渡す。私は、

「オーッ、ノー」

と言って肩をすくめるしかなかった。

ここにきて、郷は朝早く起き、私の足をつついて起こすようになった。

勉強をやろうと言うのである。

私は、郷に向かって、

「起こしてくれるのはいいが、足でつついて起こすなよ。手で起こしてくれよ。」

と言う。私は妻に言うのである。

「この2ヶ月で、郷は変わってきた。これから夏休みまでが、重要なポイント。二人して手を抜かず頑張ろう。

郷を変えてやれるのは我々しかいないんだから。」

すると、妻曰く、

「そうね。郷を守ってやれるのは私達だけだものね。

日頃はあんなに盾を突いても良いところはあるのよ。あの子も。本当に優しい子なのよ。」