書き下ろし小説 山の声

2014年01月14日 書き下ろし小説 山の声

山の声 材木屋の花嫁

昭和九年の五月、私は材木屋に嫁いだ。 私は二十一歳になったばかり、夫は二十八歳だった。 夫は製材工場を、八女の星野村に当時持っていた。私はそんな奥に住みたくないので、工場を移転することを希望した。夫もその移転の件は、かね…

2014年01月14日 書き下ろし小説 山の声

山の声 結婚

私が女学校を卒業した翌年、いつもお世話になっている野中さんから一つの縁談が持ち込まれた。この人は遠縁にあたるけど、裏隣りで、親しく行き来していて、私も大変かわいがられた。私はおじさんと呼んでいた。 おじさん夫婦には子供が…

2014年01月14日 書き下ろし小説 山の声

山の声 縁談

私が後一年で卒業という時、母の従妹で上広川村の村長だった重野新さんが私に一つの縁談を持って来られた。重野さんは始終私の家に来て粘り強く勧められた。 「まだ子供だから、縁談なんか早いですよ。」 と、母は言った。 「子供と言…

2014年01月14日 書き下ろし小説 山の声

山の声 女学生のころ

小学子六年の半ば頃になり、私も女学校に進みたいと考えながらも、兄が中学校をあきらめたのに、女の自分が進学するのは、兄にすまないような気がした。 そんなある日、受け持ちの十時(ととき)先生が突然家に訪ねて来られた。 十時先…