横浜こぼれ話は筆者の佐藤栄次が随筆や意見や考えを書いておりますので、一度見に来てください、


横浜労災病院の原田係長は私の問題を野田消化器専門医師に伝えてくれた。

野田医師は上司の部長医師と相談したという。この問題は直接私と会って話し合わなければならないという結論に達したらしい。

私からの問題提起は横浜労災病院が発行した診断書に私の聞いたことのない『原発性胆汁性肝硬変』という病名が書かれていたことである。

野田医師との面談は12月2日午後5時30分に設定された。そして、私は家内と出かけた。家内には、「今日の面談は先生と喧嘩するために行くのではなく、『原発性胆汁性肝硬変』という病名を聞かされてはいないということの確認であることだ」と伝えた。これは、私自身に言い聞かすためでもあった。

予定通り、我々は5時に病院に訪れ、原田係長にコンタクトをした。原田係長は、「わざわざ、ご足労いただいて・・・」といかにも迷惑をかけてと言わんばかりに低姿勢に挨拶をしてきた。

我々は野田医師の診察室の前に行き、先生の来るのを待った。しかし、先生は予定の午後5時半になっても現れなかった。我々は少々イラつきながら待った。結局、先生の現れたのは約束の時間の1時間後だった。私は、切れる寸前だった。原田係長が何度か現れ、「申し訳ない」と何度も謝ったのでなんとか我慢ができた。

そして、野田医師が現れた。野田医師は35歳前後の女医さんで、はっきりものを言う人だった。

野田医師は現れてすぐに本題に入った。簡単に野田医師が言った内容を書いてみよう。

昨年の夏、糖尿病の教育入院の塩田さん(筆者名:仮称)の診断をしてきました。その際、超音波検査による診断で『原発性胆汁性肝硬変』という結論に達しました。そのことを塩田さんには伝えましたよね。私たちはレントゲン、超音波やCTの診断をする時にはちゃんと患者さんに病名を伝え、了解を得て診断をしてもらっているのです・・・」と約10分くらい滔々と野田先生の話が続いた。私は黙って聞いていた。そして、終いにこう言った。「だから、診断書の書き直しはいたしません」、と。この言葉で私はとうとう切れてしまった。

私の反論はこうである。
先生、あなたは嘘をついている。立場上、そう言わなければならないのでしょうが。先生、一般の患者に『原発性胆汁性肝硬変』と言って果たしてどれだけの人が正しくわかるでしょうか? 普通の人は肝硬変という言葉は知っているでしょうが。私は先生がそこにあるモニターで肝臓の超音波画像を見せてくれ、この肝臓の辺縁部が少し丸くなっていますね、と言った言葉をはっきり覚えています。先生はそこまで覚えてはいないでしょうが。患者は先生の一言一言をちゃんと聞いているのです。私は普通の患者より先生の言った言葉をちゃんと理解しています。なぜなら、私は東京女子医大の基礎医学コースを勉強しました。また、画像診断機器の販売をしていたことから多くの著名な医師と付き合うことが多かったので尚更です。私はある程度CT画像、超音波画像、レントゲン写真が読めるのです。その私は、先生の口から『原発性胆汁性肝硬変』などと聞いたことはありません。残念ながらお忙しい医者が医学知識のない一般の人に事細かく医学用語で説明するでしょうか。ほとんどの患者は何も理解できないのですよ。私がこの労災病院に通っていますが、どの先生も同じです。モニターに向かって自分の所見を描くのが精一杯。画像で詳しく説明する先生などいません。薬の詳しい話を聞いたことは一度もありません。当然のことです。唯一、私が受けた肝臓ガン摘出手術の際に担当外科医師は懇切丁寧に説明してくれました。また、麻酔担当の医師もちゃんと説明してくれました。先生、これまで言っても、『原発性胆汁性肝硬変』を私に説明したというのですか?

すると、先生の態度が少し変わってきた。

そうですね。私は説明したと思うのですが、塩田にはちゃんと伝わっていなかったかもしれませんね。その旨を手紙で書きましょう。内容は任せてもらえますか。

私と野田医師との会話はその時初めて分かり合えた気がする。

それから数日後、第二の診断書が発行されることになる。