沙耶香が3歳の時のことである。
季節は12月の暮れのことである。
午後3時頃に近くの小学校に、家内と沙耶香の3人で遊びに行った。いつものように、ウサギ小屋に餌をやりに行く。ウサギは沙耶香の手から人参を食べる。小学校には小さな池に数少ない金魚も泳いでいて、これを見るのも楽しい。
運動場では、ジャングルジムで遊び、鉄棒でも遊ぶ。
また、運動場でかけっこをする。沙耶香は小さいながら、自分で遊びを見つけてきて、自由に飛び回る。
時が経ち、だんだん日が暮れてくる。12月は日が落ちると、冷たい風邪が吹く。
家内が、「サーたん、もう暗くなったから帰るよー」と声を掛けるても、沙耶香の遊びは続いている。
その時、その沙耶香は何やら、運動場の中央にある朝礼台に登ろうとしていた。そして、その朝礼台から、我々を呼ぶのだ。私と家内はその朝礼台に近づいてみると、沙耶香はマイクらしいものを持って、何かしゃべっている。実に真面目にしゃべっている。
静かに聞いてみると、女校長の真似をして、次のように言っている。
「皆シャン、風邪が流行っていましゅ。風邪をひかないように気をつけて・・・」と言い終わる前に、沙耶香の片方の鼻の穴から、ツーっと鼻水が流れ、その鼻水が落ちないうちにすすり上げ、何もなかったように、また、しゃべり始めた。
実にだらしのない女校長に拍手を送りたくなった。
沙耶香は、姉や、兄の小学校のイベントに来た時に、いつか、自分も女校長をやりたかったのであろう。