横浜こぼれ話は筆者の佐藤栄次が随筆や意見や考えを書いておりますので、一度見に来てください、

私の父は鉄道職員だった。そのため転勤を余儀なくさせられ、私が小学校2年に上がる年に下関に転校しなければならなかった。

私にはすぐに友達もできずしばらくは孤独な時期を過ごした。

あまり、学校の成績も良くないこともあり、あまり学校には行きたいと思わなかった。今とは違い、集団登校や集団下校があるわけでなく、約2キロの道を一人で通っていた。勉強も好きではないし、本など読む習慣もない子供であった。ただ日々を漫然と過ごしていた。

田舎では川で遊んだり、自然の中で遊ぶことができたが、下関にはそんなものはない。海といってもバスで1時間以上もかかるところにある。山などはもちろんない。

鉄道官舎の細い路地で野球もどきの遊びができる程度。

しかし、私が3年になって私の家にテレビが入った。これはまさに私には救いであった。

テレビが入ると私は直ぐにテレビっ子になってしまった。当然のことである。

当時を思い出すと、月光仮面や風小僧などといった番組を思い出す。また、家のものはプロレスが全員好きだったので、金曜日の夜は、家の中は大変だった。母親もプロレスの大ファンで、大声を上げて力道山を応援していた。

私はテレビ番組で、ラマ オブ ジャングルという番組も好きだった。ジャングルの動物が出てくるのでとても興味を覚えた。世の中でテレビは教育上良くないというが、自分の内在している興味を呼び起こしてくれるという意味では非常に良いと思う。テレビで見るライオンやトラを見るとゾクゾクした。沼地のワニはとても恐怖を感じた。

そんなことで、いつしか動物図鑑が欲しくなった。当時の小遣いは貰っても10円がいいところ。その10円を貯めて図鑑を買う計画を立てた。動物図鑑は350円していたから、2ヶ月もしないうちに350円は貯まった。

ある日曜日の朝、歩いて本屋に行き目当ての図鑑を手に入れた。この時の感動は忘れられなかった。暇さえあれば図鑑を眺め、ジャングルや草原を走る動物たちを想像するだけで楽しかった。

私が東芝に入社し、国際部の担当で南アフリカを訪れた時には、あの小学生時代に想像した草原が目の前に広がり、シマウマやキリンやサイやゾウを見て感動を覚えた。

小学5年生になると、眼鏡をかけた長身の大田先生が我々の担任になってくれた。この先生は理科の先生で、色々な自然の姿を我々に教えてくれた。

この時代も私の成績は中の中程度。通知表には3と4の評価点だった。

ある理科の時間、大田先生は光の話をしてくれた。光は直進するのだと言う。そこで、先生は質問を我々に投げかけた。光が直進することはどうしたらわかるかと聞いてきた。何人かの生徒が手を挙げたが大田先生は私を指して、答えさせた。

私は、「影ができるから、光は直進するということがわかる」と答えた。

大田先生は、「実に明快な答え」だと褒めてくれた。そのことが今も忘れられない。

また別の日の授業では天体の勉強だった。太陽の周りを幾つもの星が回っている。水星や金星や地球などが回っている。この話を聞いた時、私はこんな風に感じた。どうして、そんなことが分かるのか?私が考えてもみない世界の話で、あまりピンと来なかった。しかし、大田先生は、地球は自転している。だから、太陽や月や星は東から出て西に沈む様に見えるのだと説明した時には、何?太陽や月や星が動いているのではなく、地球が自転しているからそう見える?それホント?私にとっては大変衝撃的であった。先生は夜空の星も東から出て西に沈んでいることも説明してくれた。夜空の星の中に北極星があり、その北極星だけは回転しないというのだ。私と同様に、友達も信じられない様な表情していたのだろう。大田先生はその表情を見て、よし、来週の金曜日の夜8時、みんな学校に集まらないか?と提案してくれた。もちろん希望者だけ。その希望者の家には大田先生が手紙を出すから、家の人と一緒に来るようにと言った。そして、当日の夜がやって来た。私は友達と一緒に学校に行ったような気がする。

夜の校庭にクラスの友達が集まった。それだけでワクワクしたが大田先生の星の説明がより一層面白かった。北極星やら北斗七星を見て感動した。もっと感動したことは、あの星の中に我々と同じ生き物が生きていると聞いて、本当にゾクゾクしたことを覚えている。

今頃になって、あの大田先生が私の人生を変えてくれたような気がする。文殊菩薩が大田先生に入り込んだのだと私は思うようになった。

文殊菩薩とは、実際にお釈迦様が生きていた頃に生きていた人で智慧の菩薩と言われている。般若経典では釈迦仏に代って般若の「空(くう)」を説いている。

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