横浜こぼれ話は筆者の佐藤栄次が随筆や意見や考えを書いておりますので、一度見に来てください、

夫の復員

夫の復員

昭和十五年の春、夫は復員してきた。 私がホッとしたことは、言うまでもなく、まずは双方の無事を喜び合った。 一週間ほど経ち、疲れも取れた夫は、まず熊本の山を見に行くことになった。夫は熊本でも宮崎でも、山の地理は詳しいので、地図を描き地名が分か …

肥後の山

肥後の山

昭和十四年には、熊本県に大きな杉山を買った。価格は三万五千円だった。 今から差し詰め、二、三千万円の山だろう。 福岡の金川材木店から、三万円を借用した。借用した金の返済には、素材と製品を、送り込むことで契約した。 夫もいないのに、そんな大き …

長女出生

長女出生

私には自分の時間などはなく、モンペははき通し、髪は梳(くしけず)るだけ。顔にクリームなども塗らぬ日が多かった。鏡に向かっている時間もなかった。朝から働き通しだったからである。一体どんな格好をしていたのか、誰が見ても女らしさなどなかったに違い …

山は商品と違う

山は商品と違う

おおむね山の売買には、仲買人が居て、特に高額の山になると、その世話料もばかにならない。 山主と商いの交渉は、長引けば一年も二年も掛ることもあった。昭和十五,六年でも、山代金は高額だった。 山主が売る意思があれば、山の調査をし、価格の交渉に入 …

二十五歳の女材木屋

二十五歳の女材木屋

不況の中でも、原木は買わねばならず、無理算段して少しずつ購入し、それを搬出して、売りさばくまでには、幾多の工程があり、難問は山積した。 私は一生懸命一人で勉強した。 たとえば原木を製品化する時、どんな製材のやり方をすれば、一番有利か、高く売 …

召集令状

召集令状

小野市の山を見てきて暫くした十三年の六月十五日に、予想通り召集令状が来た。 今日か明日かと思っていたので、さほど驚きはしなかったが、いざ直面してみると、話し合わねばならぬこと、聞いておくべきこと、取引先のことなど、とても一日や二日では、満足 …

小野市の山

小野市の山

昭和十二年に、大分県大野郡小野市村に、六百町の山を買った。 私の従妹がこの村に居住していて、雑貨店を営んでいた。この意図は梯茂三郎というが、椎茸を商う関係で山のことも詳しかった。 安い山が売りに出ているので、見に来ないかと連絡があり、夫が見 …

茂田井の山

茂田井の山

取りあえず茂田井の松山を、見に行くことにした。乳飲み子を連れ、夫について行った。 松山まで行く途中、木間道が掛っていた。二本のレールを並べ、枕木は小丸太を打ち付け、その上を木材を積んだ橇(そり)が通るのである。山道だから殆ど傾斜で、よほど熟 …

日支事変おこる

日支事変おこる

昭和十二年に日支事変が起こった。 昭和六年日本軍が満州に引き起こした侵略戦、つまり満州事変があり、その翌年の昭和七年に五一五事件があり、海軍将校や士官学校の生徒らが、支配階級に不満を抱き襲撃して、政党内閣の幕を閉じた。 昭和十一年に二二六事 …

長男出生

長男出生

昭和十一年頃、私の工場では、鮮魚箱を主に作っていた。世の中は不景気で、新築の家も少なく、木材の需要は限られていた。 現在のように、木材市場も無かったので、家一戸分の用材を全部揃えるには、日頃から原木を確保しておく必要があった。金のない私たち …