横浜こぼれ話は筆者の佐藤栄次が随筆や意見や考えを書いておりますので、一度見に来てください、

多分、私が幼稚園に通っていた頃のことでしょう。

まだ、古い家に住んでいた。
その土間で、みんながワイワイ言っている光景が目に浮かんでくる。
かずえ姉は小学二年生で、久夫兄が小学三年生。
そして、秀夫兄が高校一年生か、あるいは二年生。
そこにはキヌエ姉もいる。
多分、親父もお袋も居たから、ある平和な時期の我が家の日曜日の光景であった。

なぜ、わいわい言っているのかと言えば、どうも、コーヒーを初めて入れるからである。
コーヒーポットとコーヒー豆を啓一兄が買ってきたから、みんなで飲もうというのだ。

 

その場を取り仕切っているのは、秀夫兄とキヌエ兄。
我々は、コーヒーってどんな味だろうと興味津々で待っている。
秀夫兄が、コーヒーの淹(い)れ方をチェックしている間に、キヌエ姉が得意のドーナッツを油であげている。
私はこのドーナッツが大好きであった。

いよいよ、秀夫兄がコーヒー豆を擦る。
そして、水をコーヒーポットに入れて電気のスイッチをオンにする。
湯が沸いた頃に擦ったコーヒー豆をポットに入れる。
すると、プーンとコーヒーの香りがしてきた。

最初にいれたコーヒーはまず、親父とお袋が飲んだ。
その後、私も飲んだ。
私は、この時のコーヒーの香りと味は一生忘れられない。
それ以後、様々な所でコーヒーを飲んだが、その時の同じ香りと味のコーヒーを味わうことはなかった。

話は変わるが、私の結納の儀式が終わり、親父とお袋が飛行機で宇部空港に降りた後、キヌエ姉に、
「どこかでコーヒーを飲みに連れて行ってくれ」、と言われたので連れて行ったと聞く。

私は、この話を聞いた時、直感で、親父も20数年前に初めて飲んだコーヒーを思い出したのだろうと思った。

私も、いいことがあり、ホッとしてコーヒーを飲む時、不思議にその日の光景を思い出すのだ。

コーヒーとドーナッツはとても合って、美味しいのはそのせいであろうと思う。