江戸後期に仙厓義梵(せんがいぎぼん)という禅僧がいた。
洒脱な墨画で有名である。
ある時、仙厓は何かめでたい言葉を書いてくれと頼まれ、筆を執った。
そして、いきなり、
「祖死父死子死孫死」 、と書いて与えた。
もちろん依頼人は顔をしかめた。
めでたい言葉を頼んだのに4つも”死 ”が入っている。
「いくらなんでも、これはひど過ぎる。」
しかし、仙厓は平然とこう説明した。
「いや、これはめでたい言葉じゃ。いいか、先ず爺さんが死んで、それから父親が死ぬ。そして、子供が死んで、その後で孫が死ぬ。この順番で人が死ぬほど幸福なことはない。この順番がちょっとでも狂ってしまうと、親は子や孫の死を悲しまなければならない。その所をよく考えてみなされ。」
また、別の話もある。
ある檀家の新築祝いに仙厓が招かれた。
主人は仙厓に 新築祝い の揮毫を頼んだ。
仙厓は筆を執ると、
「ぐるりと家を取り巻く貧乏神」と書いた。
主人は渋い顔をしていると、仙厓はその後を続けた。
「七福神は外に出られず」
なかなかの祝い言葉である。