横浜こぼれ話は筆者の佐藤栄次が随筆や意見や考えを書いておりますので、一度見に来てください、

高校時代に、山根という友達がいた。この男は数学が抜群にできた。この男はなぜか下宿生活のように一人で生活をしていた。私が解けない問題があると山根の下宿に行き、質問をする。すると、何やら一人でゴソゴソと数式を書き始める。そして、20分くらい経った頃、「公式が出てきた!」と叫ぶのだ。

彼は、私の持ち込んだ問題に関連する公式を自分の手で導いていたのだ。その上で、私が聞いた問題の解説を始める。彼の説明を聞くと、鮮やかに理解できるのだ。

山根は数学だけでなく、物理や科学に興味を持ち、高校生とは思えないほどの本を読んでいる。みんなが大学受験で必死の時、宇宙の話とか、原子の話とかをよくしていた。

山根がある時、原子の構造を話していた。原子核の周りに数個の電子が回っている。ちょうど、太陽の周りを地球などの惑星が回っている。すなわち、その世界は空間だらけなのだ。その原子からできている我々の体も実のところ空間だらけということ。

その空間だらけの我々の体がお互いに触り合っても、実際のところは触っていないということなんだ。これは大変面白い発見だと自分は思っているというのだ。

この男の実に面白いところなのだ。

山根の話で、もう一つ面白い経験をお話ししよう。彼は大学に入ってやはり物理を専攻した。久々に会って山根と話す機会があり、彼の近況を聞いたところ、今は仏教を勉強しているという。そこで、生命の尊さを悟り、お釈迦様に近づくために今は菜食主義になった。殺生をしてはならないと思い、今は蚊が刺しても蚊を殺さないように努めているというのだ。そんなことをとうとうと語るのだ。

それから、しばらくして、高校時代の同級生と山口県の長門峡にキャンプに行くことになった。キャンプ場に着くとそれぞれがテントをはり、食事の準備を始めるのだが、かの山根だけは木の上に横になり、ないやら迷走に耽っていた。すると、他の友達が、「そんな所にいると、蚊に刺されるぞ。刺されてもお前は蚊を殺すことができないので、・・・」と山根の仏教かぶれをからかった。すると、山根はスルスルと木から降りてきて、そいつと喧嘩を始めた。からかったその男はさらに、「お前は蚊を殺せないが、人間には殴ることができるのか?そりゃあ、おかしいじゃあないか?」と吹っかける。

その後、山根は高校の物理の先生になったと聞くが、決して、受験用の授業はやっていないだろうと推測する。