郷君(9才)、一学期から割り算が始まった。
思えば一年前の夏休みは、掛け算の100問計算の特訓をやったもんだ。
女房が私に言った。
「郷は九・九を全部覚えてないから、テストがさんざんよ」
「あの子は覚えるのを嫌がるから、お父さん教えてよ」
私は郷を呼んで聞いた。
「郷は九・九を知ってるか?」
郷は、
「知ってるよ」、と答えた。
そこで、私は、
「全部言えるか?」、と尋ねたら、
「・・・・・」
無言である。
「おまえ、ひとができて、自分が出来なければ、悔しくないか?」
「そりゃあ、悔しいよ」
「じゃあ、お父さんが教えてやるから、やってみるか」
「ウン」
これで、会話は成立。
「おまえ、出来ないと言ったが、出来るじゃあないか」
と、少し誇張して驚いて見せる。
本人は,少し気分がよくなる。
そこで、徐々に六の段、七の段と進める。
この辺りになると少しずつあやしくなる。
私の経験からも、この辺りの段から難しくなったのをうっすらと覚えている。
そこで、集中的に六の段をやる。
そして、その日はお終い。
次の日は七の段。
三日目は八の段。
四日目で九の段。
決して焦ってはならない。
子供が嫌になる前で、勉強は止める。
これがポイントだと思う。
五日目からは、小テストの連続。
それもいつも80点が取れるように問題を作る。
いつも自信がつくようにテストをする。
そのうちに、時間で記録を取る。
もう、その時には、本人は闘う戦士になっているのだ。
その結果、郷の算数に対する苦手意識は完全に克服された。
それから一年、郷は割り算の世界に入って行った。
私には、特にこの割り算に深い思い入れがある。
私が小学3年生。
あまり勉強の好きでなかった私は、どうしても割り算の意味が解らなかった。
そんな私に親父さんは、羊羮を使って割り算の意味を教えてくれた。
羊羹を2つに切って、一つをフォークに刺してこれが二分の一。
更にそれぞれを2つに切って、その一つをフォークに刺して、これが四分の一。
「解ったか?」
と言って,私の口に入れてくれた。
四分の一って、美味しいなと思った。
私はそれで分数が100%理解できた。
その後私が数学、物理が好きになったのはこの時からである。
人生を変えた羊羹であった。
その郷がいよいよ割り算。
それを教訓にして、郷にも、理解を容易にするため、お菓子などを使って教えてやった。
効果てきめん。
割り算の意味が解れば後は、訓練のみ。
4÷2、6÷3等々、何度も何度も簡単な問題で迫る。
「そんなの簡単過ぎるよ。もっと、難しい問題を出してよ」
と言うまで続ける。
そして、その言葉は時間の問題である。
問題を少しずつ難しくしてやった。
ただし、一日の問題数はいつも少な目に。
「もう、終わるの?」
という程度に。
そして、最後に、「0÷2は?」と質問した。
すると、郷はしきりに考え、そして、
「ゼロ割る2は、割られるものがゼロで、何もないから、どうしようもないから、答はゼロ。」
驚きの大進歩である。