有田さんが静岡に住んでいたときの話。
有田さんの子供さんが小学生。
ある日、参観日で学校に行くと、知らないお母さん方が数人でやって来た。
この学校のPTAのお母さん方で合唱団をやっているから入会してくれという。
学校のことは解らないし、PTAの人と親しくなるのは必要なことだから、入ってもいいと思った。
そこで、有無を言わさず、強引なまでに入会の用紙にサインをさせられてしまう。
次回の練習日は*月*日ですから、と言われる。あっという間の出来事だった。
恐る恐る合唱団の練習に行ってみると、みんなが歓待してくれた。
そして、あっという間に有田さんはメゾソプラノのパートに入れられてしまった。
練習が始まると、先生が有田さんを指差し、「もう一度歌って見なさい」、と言われた。
そこで、有田さんは自分のパートを歌うと、先生は不思議そうに納得する。
また、練習が始まると、有田さんが指される。
また一人で歌わされる。
それを聞いて、先生は不思議な顔をする。
有田さんが問題であるらしいが、一人で歌うと問題はない。
その原因は有田さんだけが知っていた。
自分は自分のパートを歌うのは全く問題ないが、みんなで歌うとついついつられてしまう性格だった。
しかも、声は大きい。
そこで、先生は有田さんに主旋律を歌うように言われた。
その年の秋の文化祭で、「親指姫」のオペレッタをやることになり、主役決めでおおもめにもめた。
みんなは合唱で歌うのは平気だが、主役を歌うほど自信はない。
そこで、なぜか、「有田さんがいい」、と決まったらしい。
有田さんは驚いたが、了承した。
親指姫はカエルに連れ去られようとするとき、そのヒモを鯉が食いちぎり、助けようとする。
まさにそのシーンで、事件が起こった。
助けてくれた鯉が紐を引っ張ろうとする。
しかし、有田さんの体重でその紐が千切れてしまった。
舞台のその上では、葉の上に乗っかった有田さんは動けない。
有田さんは自分の足で舞台を蹴りながら、幕まで移動していったという。
この情景はもうオペレッタというよりも、喜劇のシーンに変わってしまった。
それから後、町を歩いていると、子供達が有田さんのことを指差して「あっ、親指姫」と言ったとか。
神様のようなこの女性の心に触れたようで、今日は気分がいい。
ありがとう。