ある日、女房がテレビを見ていた。
そこに“銀座の母”が出ていた。
相談していたのが、50歳前後の主婦。
どうも、自分の運勢が良くない。
自分の周りのある人間の存在が気になる。
自分の足を引っぱっているのではなかろうか?
と“銀座の母”に相談を持ちかけていた。
あまりにも、長い間、自分の運勢が好転しないから、相談に来たのだという。
“銀座の母”は、じっと聞いていて、
「あんたの運勢が切り開けないのは、自分のせいです。もっと前向きに、もっとオープンに・・・」
とずばりと言い切った。
その上で、
「あなたの家にある釘を何本か水に入れておきなさい。すると、釘が錆びてくる。そうすると、あなたの運勢も好転するでしょう。」
と言った。
それを聞いていた、女房は、私に、
「うちに釘はないかしら」
と聞いてきた。
私は工具箱を探してみたが、釘は一本もなくネジしかなかった。
すると、女房は翌日、どこかで釘を買ってきて、
空き缶の中に水をいれ、そこに4~5本釘を放り込み、ベランダに置いた。
それから毎朝、花に水をやる時その空き缶をのぞきこむ。
そして、私に、
「最近は釘も錆びないようになっているのねぇ」
と笑っていた。
それから2ヵ月後、私はベランダに出て花に水をやっていたら、足元にその空き缶のあることに気がついた。
中の釘を見ると、なんと、錆など全くなく、新品同様輝いていた。
中の水はもう蒸発していて、水はなかった。
女房に、
「あの空き缶の中にはもう水がないぞ」
と言うと、女房は既に承知していた。
そして、その返事は、
「私、その釘にヤスリをかけてみようと思っているけど、そんなことまですると、逆に罰が当たるみたいな気もする。
なかなか、自分の運勢も開けそうにないみたいと、あきらめかけているの。」
ちょっと、可哀想な気もした。
そこで、フッと気がついた。
私が、女房の運勢の足を引っ張っているのかもしれない、と思った。
ああぁ! 釘よ、錆びてくれ! 私は、またその空き缶に水を注いでおいた。