横浜こぼれ話は筆者の佐藤栄次が随筆や意見や考えを書いておりますので、一度見に来てください、

背景

背景

私の七十六年の生の記録をまとめてみた。 私の一生は、起伏の激しかった夫によって左右された、転変の歩みである。 夫は山に魅せられ、木材に生きた人である。死の際も、アラスカの原始林を幻覚に見ていたほどである。 事業欲が人一倍強く、絶えず何かを求 …

夫の晩年

夫の晩年

木材の方から手を引いた夫は、機械いじりに没頭した。また、六十歳になって、ボイラーの資格、危険物取り扱いの資格、冷凍機取扱い資格などを取得した。これらの資格を持ち、五・六年間はビルに勤めた。 車は十八歳から乗っていたらしいが、七十四歳まで乗っ …

レストラン「タイオウ」

レストラン「タイオウ」

山の整理も、どうにか一段落着いた頃、 「遊んでいるわけにもゆかぬから、日銭の上がるようレストランでも、やってみようか」 と夫は言い出した。 「そんな、全然経験もないのに、レストランなど始めてもうまくゆく筈もないですよ」 「食べるだけ上がれば …

縁談

縁談

私が後一年で卒業という時、母の従妹で上広川村の村長だった重野新さんが私に一つの縁談を持って来られた。重野さんは始終私の家に来て粘り強く勧められた。 「まだ子供だから、縁談なんか早いですよ。」 と、母は言った。 「子供と言っても、もう 17 …

おわりに

おわりに

私は娘たちのすすめもあって、一人には広すぎる家も、物も、見栄も捨てた。 今は小さなマンションに、一人で住んでいる。ここは環境が良く、便利なので、私は気に入っている。 時の流れは、人の心をも洗ってくれるものか、川の流れのように、この世の常なら …

夫逝く

夫逝く

寝たきりになって、三年目頃から、夫はあまり話さなくなった。多分言語障害が来ているのだろう。 私が帰り支度をしていると、いつの間にかスカートを、しっかりつかんでいたこともあった。帰したくなかったのだと思う。 「また、あした来るからね。」 と言 …

幻覚症状

幻覚症状

夫は入院して、半年ほど過ぎたある日、トイレで倒れて、脳梗塞と診断された。 それから寝たきりの状態となった。意識はあるが半身不随である。 園には、有能な看護婦さんが数人居られるので、適切な処置もして下さるし、医師もすぐ呼べるよう指定の病院があ …

園の人達

園の人達

園では、手足のまあまあ利く人で組織されたブラスバンド部があった。その人達は、毎日練習していた。年に一、二回演奏会があり、出演していたようである。 老人を出来るだけ、寝たきりにせぬため、また、痴呆にせぬための音楽療法が取り入れられている。特に …

悠生園

悠生園

五十九年の八月に、夫は悠生園に入園することが出来た。 お蔭で私は大分楽になった。入園した夫から、毎日ハガキが届いた。 園内の生活、私が行く時、持参する物、待っていることなど、いつも似たようなことを書いてきた。 また、時々、 「俺はこんな所に …

夫病む

夫病む

五十八年ころより、夫の神経痛はひどくなった。そのうち、リュウマチを併発し、次第に歩行が困難になった。 及川病院に四、五日おきに通い、膝から水を抜くことを繰り返した。 病院の往復のタクシーの乗り降りも、時間がかかり、運転手は良い顔をしなかった …