書き下ろし小説 山の声
2014年01月14日
書き下ろし小説 山の声
山の声 悠生園
五十九年の八月に、夫は悠生園に入園することが出来た。 お蔭で私は大分楽になった。入園した夫から、毎日ハガキが届いた。 園内の生活、私が行く時、持参する物、待っていることなど、いつも似たようなことを書いてきた。 また、時々…
2014年01月14日
書き下ろし小説 山の声
山の声 夫病む
特別養護老人ホーム 五十八年ころより、夫の神経痛 はひどくなった。そのうち、リュウマチを併発し、次第に歩行が困難になった。 及川病院に四、五日おきに通い、膝から水を抜くことを繰り返した。 病院の往復のタクシーの乗り降りも…
2014年01月14日
書き下ろし小説 山の声
山の声 家出
昭和五十六年五月、私は意を決して、家出した。行先は娘たちの住んでいる横浜だった。 昭和四十八年頃、三井郡小郡町に、私の兄と野中氏、私と他一人の四人共同で土地を買った。坪数は二四五八.七一坪だった。この土地を五十五年と…
2014年01月14日
書き下ろし小説 山の声
山の声 火事
一人息子を失った夫は、次第に寡黙となり、機械いじりに熱中した。時には夜中まで、金物や電線など、部屋に広げていた。 ボイラーに勤めている時も、給料の半分は、金物代に消えていた。毎月月末には、金物店から請求書が届いた。 …