私がブラジルで超音波セミナーを企画実施して後、各国の販売代理店から、それぞれのところでも超音波セミナーをやりたいという要求が私の所に届いた。
私が経験したインドネシアのセミナーでの出来事を紹介しよう。
私は当時千葉大におられたDR木村を訪ね、インドネシアに行くことを要請した。インドネシアでのセミナーの会場は第二次世界大戦後に開かれたバンドン会議の開催地のバンドンであった。その会議は1955年、独立したインドのネルー首相、中国の周恩来首相、インドネシアのスカルノ大統領およびエジプトのナセル大統領などが主催したAsian-African Conferenceであった。

病院はDr. Hasan Sadikin Central General Hospital。
木村先生は当時の日本超音波学会で、肝臓・胆嚢・膵臓のトップクラスの存在だった。
木村先生は講義を１時間行い、その後、実際にその病院では診断不能の患者を超音波装置で診るのである。
患者はベッドに寝かされると、10分以内で診断を下す。当然、聴衆の先生方には診断の根拠を説明する。
するとそこに集まった100人以上の先生から拍手が沸き起こる。
患者は次から次へとベッドに寝かされる。そして、診断。そして、拍手。
ところが、そこに、12歳の子供か連れて来られた。
この時は異常なまでに、会場が静まった。
この病院の先生達はこの子が如何に深刻な状態にあるかを知っていたからだった。
木村先生は、診断を告げた後、大きな注射器を持って来させ、お腹の肝臓に刺した。
何かを吸い出しているのだ。そして、その吸い出した物を高く掲げて、説明した。その瞬間、大歓声が上がり、そこにいた先生達は拍手しながら立ち上がった。
先生達は口々に、これは凄すぎると言ったように思えた。
その夜、夕食後、私は先生に尋ねた。
今日の出来事について説明してもらった。
木村先生は私も実は文献でしか読んだことがなかったと言った。
すなわち、あれはアメーバ性肝膿瘍というもので、アメーバが肝臓の中に入って、肝臓を食ってしまう病気なのだそうだ。日本にはそんな患者は居ない。
そこで、その肝臓のチョコレート色の膿を吸い出せば、この病気は完治してしまうのだ。
注射器で吸い出した瞬間、あの子は助かったのだ。
とても、感動的な瞬間だったのです。私も興奮してしまいました、木村先生は言うのだ。
佐藤さん、こんなチャンスを与えてくれてありがとう、と改めて私にお礼を言うのが木村先生流なのだ。

注）上記写真はインドネシアのバリ島のキンタマーニ山に行った時、たまたま、当時の大蔵大臣の渡辺美智雄と会ったため一緒に写真を撮ったもの。木村先生は左端。