横浜こぼれ話は筆者の佐藤栄次が随筆や意見や考えを書いておりますので、一度見に来てください、

南アのビジネスは予想以上に伸びた。
マンデラが釈放されて返った後、国連からの支援や、各国からの投資などで経済は活発になっていった。
マンデラ以前はレストランにはドアに鍵が掛かっており、ドアをノックすると、ドアの覗き窓が開き、客が黒人ではないことを確認して開けていた。
その状況がガラリと変わり、マンデラ以後は全くオープンになった。
ベジェレのTECMED社は移転して、会社の規模が大きくなった。
営業やエンジニアの数も数倍になった。
新社屋の開所式に何か日本的な物はないかと問われたので、日本から大きな髭ダルマと招待客へのお土産用としての小さなダルマを航空便で送った。
ダルマは随分、評判が良かったと言ってくれた。
社長のベジェレは南アで代理店会議をやりたいと代理店のみんなに提案した。
勿論、この提案にはみんな諸手を挙げて大賛成。
時期は6月だったと記憶している。
この時期でないとマラリア原虫を媒介するハマダラカに刺される恐れがあるから。
そして、みんなはそらぞれヨハネスブルクに集合した。
その翌日、ヨハネスブルクから400キロメートル以上離れたサンシティにバス2台で向かった。
このサンシティのホテルは想像以上にでかく、敷地も広かった。
午前中は講義、午後からは自由時間。夜はカジノとみんなそれぞれ楽しく過ごした。
サンシティには面白いゴルフコースがあると言うので3パーティで回った。
そこに打ち下ろしのショートホールがあった。
我々の前のパーティがそのホールでワーワーと騒いでいた。
私はそのホールで幸いワンオンしたが、グリーンエッジまで転がっていった。あわやバンカーに入ったかと思った。
グリーンに行ってみると、何とグリーンの周りは1.5メートルの深さのバンカーがあり、そこには沢山のワニが口を開けている。私の玉はグリーンエッジだから、否応なしにワニに近づかなければならない。日本では考えられないほど、危険と隣り合っている。
各国の代理店の人々はこんな楽しい思いをすることを想像してはいなかったであろう。
これでより一層、仲間意識が強くなったように思う。
サンシティで三日間過ごし、四日目はバスで国立ゲームリザーブのクルーガーパークに向かった。
クルーガーパークに着いた時はもう日が暮れていた。
だから、どこに柵があるのかわからない。
夕食は、正に野生の中でバーベキュー。野生動物がどこから狙っているか分からないという思い。バーベキューが終わるとそれぞれ指定されたロッジまで歩いて行かなければならない。それがまた怖いのだ。
ロッジでウトウトと眠ると、朝の4時頃電話で起こされ、今から動物が水を飲みに来るのを見に行くと言う。
真っ暗な外に出るとひんやりとしていて、少し寒いくらい。
野生動物の水飲み場である湖は、我々のロッジからはそれほど離れてはおらず、歩いて行ける距離にあった。そこに行くと何人もの人達が既に来ていた。
そんな中、カバが大きな声を挙げて、湖で喧嘩を始める。
カバの喧嘩の雄叫び以外は静寂である。
段々と夜が開け始めると動物が集まって来るのが分かるようになる。
時間の過ぎるのを忘れるほど緊張が続く。
周りが明るくなり、ふと気がつくと、柵があると思っている所には柵が無かった。獰猛な動物に不意に襲われる危険性がある。
自分達も野生の中にいると分かると急に怖くなってくる。
それでも、野生動物が水を飲みに来るのを見るだけでワクワクした。
朝食を終えると、いよいよ本命のサファリに出発。
サファリは2トントラックに長椅子が横に4列並べてあり、幌も何も無い状態で出掛ける。そのトラックには16人乗る。そこにライオンなどが襲いかかればひとたまりもない。
運転手は黒人。そして、白人のレインジャーが一人ライフル銃を持って同乗。
トラックで山に沿って走ると、たまたま、イボイノシシの親子に出会す。母親イノシシに5〜6匹の子供イノシシが一生懸命走る姿が何とも言えず可愛い。
間もなく走ると、黒人の運転手が指して何やら叫ぶ。白人のレインジャーが、あの方向にサイが2頭いると補足説明するが、指す方を見ても何も見えない。
「あの木の下にいる」と言うが、その木が見えない。
双眼鏡を渡され、サイを探すがダメ。何故なら、走るトラックでは双眼鏡も動いて全然見えない。
トラックを止めてもらい、じっくり探すが、やはり、見つからない。
すると、黒人の運転手が、
「ほら、今動いた。右に」
そう言われて、初めて分かった。
レインジャーに運転手の視力を聞くと、4.0だと言う。
また、トラックを走らせると今度はすぐ前をサイが歩いていた。動物園のサイとは迫力が違う。
キリンが優雅に歩いている姿もいい。
トラックがブッシュの中を走り始めると、レインジャーが、
「左右に気を付けろ、この辺りは不意に象が現れるから」
と注意を促す。そう言われると、急に皆の表情が変わる。
すると、急にトラックが止まる。
レインジャーが真顔で小さな声で、
「静かに❗️」と言う。
前方30メートルに大きな象が現れたのだ。
みんな固唾を呑んで、象を見ている。
すると、象が少しずつ近づいて来る。
運転手はトラックを少しずつバックさせる。決して、象を怒らせないように。
象は、向きを変えて歩き始める。
この間、多分、2〜3分の出来事だが、迫力満点。
決して、演出などではない。
しばらく行くと何台ものトラックが止まっている。
するとその前を堂々とライオンが道路を横切って行く。
このライオンの迫力も凄い。
途中、一頭のバッファローが倒され、それに何頭ものハイエナが群がり、その周りにジャッカルが数頭居て、更にその周りに沢山のハゲタカが群がる光景を見た。
こんな光景はテレビでよく見たが、この眼の前で繰り広げられている実際の光景はやはり違っていた。
圧巻は、木の上にいるヒョウを見た時である。
ただ、木の上で休んでいるだけなのに凄い迫力。
南アフリカの連中も、サファリでヒョウを見るチャンスはあまり無いと言う。
サファリが終わり、みんなでバーベキューパーティの際、一人の南アフリカ人スタッフが、こう歌い始めた。
「今日、俺たちはヒョウを見た〜♪♪♪
お前たちはヒョウを見ていないだろう〜♪♪♪♪」
すると、それにつられて、他の連中も歌い始める。
こうして、パーティはヒョウを見たグループと見ていないグループに分かれて歌合戦で盛り上がった。

代理店の人々も、このわけもわからない歌に合わせて大騒ぎ。
そして、みんながここに来られて良かったと言ってくれた。
私は、過去色々な国に訪れたが、この大自然が最も素晴らしいと思う。
東芝社内で色々闘いながら生きて来たが、この自然を堪能できたことと、多くの仲間が出来たことで、全て良しと思った。

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